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農作物の「加工」で、農業の産業化を

農業の世界は、これからどのように変わっていくべきなのか?「JAグループの自主改革に関する有識者会議」の座長を務めた中央大学ビジネススクール教授・杉浦宣彦氏に聞いた。

まだまだ無駄の多い流通構造

2015年を振り返ると、JAは完全に逆風の中を進んでいたと思います。農業政策の中で「補助金から決別しよう」といった話も出ていましたが、実際にJAの現場を見てみると、補助金が本当に必要なケースは減ってきているように思います。

農業は現在、ほぼ自由競争となってきており、例えば最近は米のブランド化が各産地で取り組まれていますが、それがいきすぎて、「ブランド」価値自体が失われているケースもあります。水準が平均的に高い日本の米では、ブランド米とそうではないものの違いがわかりにくいのです。

他の農作物に関しても、一定量が欲しい首都圏のスーパーなどでは、最近は特定の農協や生産法人と提携して生産しています。ただ、「その農地に雹が降ったら終わり」という、ある意味でバクチ的な状態になっています。そこを結局は緊急輸入などで対応しており、農業流通には、無駄がまだまだたくさんあるのです。

皆さんの手元に届く農作物は、JAなどが選果し、決められた規格に収まるような形で段ボールに詰めたものが届けられています。結果、リンゴや桃は、全生産量の4割も流通しておらず、1〜2割の多少形が悪いものが現地で販売され、残りのかなりの割合はジュースなどにしか使われないのが現状です。

そんな農業の世界をどう効率的に変えていくかが、TPPに勝てるかどうかにもつながっていきます。

農産物の「加工」がカギを握る

今年1月、福島市のJA新ふくしまと銀嶺食品が包括的業務提携を締結しました。私も関わっているプロジェクトです。簡単に言えば、JAが規格外のリンゴを約50t近く銀嶺食品に買ってもらい、それをアップルパイの原材料に加工して売るというビジネスモデルです。

これまで市場ではキロ20円くらいだったものが、新しい付加価値により倍以上の値段で売れ、それでも最終加工業者には喜んで買っていただいたケースですが、「加工」の世界から農業収益の構造を変えていく大きな一歩だと思います。

これまでJAの加工場では百貨店や道の駅などで売るような“お土産品”を作るという感覚でした。ただ、都心では持ち帰り弁当が普及して、既に首都圏に近い工場が手一杯になってしまっています。そこで、地元の工場で加工して首都圏に届ければ流通もシンプルになり、地元に落ちる利益も拡大できます。

単協(市町村単位のJA)ベースで様々な取り組みをしていますが、1次産業だけでは農業者は季節労働者的になり、若い世代も含めて農業者を地元に止めておくのは無理です。

農作物の出来不出来による影響を最小化するためにも、生産、流通の間で加工までする「農業の産業化」をしておけば、年間を通じた所得の安定性がぐっと高まります。このような展開を通じて、一定量の生産が維持できれば、農業の大規模化や効率的な土地利用なども考えられるようになり、ついては農作物の価格の安定につながり、サラリーマン的な形の農家という新たな形での生活も実現するかもしれません。

これまで農業においては、1次産業と2次産業が連携していなかったのが、決定的な欠点でした。加工すれば輸送コストも安くなります。たとえば、福島から東京までリンゴ50tを運ぼうとすると、コンテナ輸送で数往復分ありますが、あらかじめ加工することで半分以下になりますし、輸送中に傷む事もありません。

補助金は設備刷新のために

日本は世界に冠たる選果能力があります。皆さんが不安に思われている放射線量についても、福島ではJAで全量検査しています。世界でもここまでしっかり検査をしている国はありません。他にもJAが果たした役割は重要で、食料管理制度が無くなって自由競争になる前でも、高い商品の価格をそれ以上に上げ過ぎない調整をするといった、消費者にとってのメリットもありました。実際、食管制度廃止後も農作物の平均価格はそれほど上がっていません。

最近は自由競争が進んで高齢の農家は生産量も落ちてきて、ついていけなくなっています。後継者問題も出てきました。採算性を高めて、後継者を見つけ農業離れを防ぐという取り組みを、単協ベースでもしてきています。

あとは、コスト面で言えば、どこまで自然エネルギーで補えるかもポイントです。例えば、いちごを作るビニールハウスなどは、かなりの電力消費量です。それをソーラーバッテリーで補うという方法もあるでしょうが、効果は未知数です。

補助金という観点で見れば、これからは価格調整のためではなく、そうした施設設備の刷新のために必要だと思います。


杉浦 宣彦
中央大学大学院戦略経営研究科(ビジネススクール)教授。金融法やIT法が専門分野だが、現在、福島などで、農業の6次化産業化を進めるために金融機関や現地中小企業、さらにはJAとの連携などの可能性について調査、企業に対しての助言なども行っている。


文/大根田康介

※『EARTH JOURNAL』vol.01 より転載

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